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#53 『鈴木絵美子・原田早穂 ベストパートナー』
主人公 シンクロナイズド・スイミング/鈴木絵美子(すずき・えみこ)
1981年生まれ(24歳)
埼玉県出身

小学校3年生からシンクロを始め、高校生の時「東京シンクロクラブ」に移籍。日本大学を経て、現在ミキハウスに所属。2005年世界水泳モントリオール大会ではチームのキャプテンを務める。

シンクロナイズド・スイミング/原田早穂(はらだ・さほ)
1982年生まれ(23歳)
東京都出身

小学校2年生から「東京シンクロクラブ」に入部しシンクロを始める。日本大学を経て、現在ミキハウスに所属。

(デュエット)
2005年世界水泳モントリオール大会で世界デビューと同時に銅メダルを獲得。今年、日本選手権ジャパンオープンで強豪スペインを破り、初優勝を飾る。

第一章・同調

水面の上の碧い舞台でプリマドンナが2人、全身を"音楽"にして、五線譜の上を踊る音符のように、メロディを舞う――。女子シンクロの"新生ジャパン"を背負うふたりのエース、デュエットの鈴木絵美子・原田早穂ペア。

シンクロナイズド・スイミングには、3つの種目がある――。広いプールの中、1人で演技する『ソロ』。2人組で、息の合ったところをみせる『デュエット』。そして、8人でダイナミックな演技を展開する『チーム』である。
3種目ともに、"規定演技(テクニカル・ルーティーン)"と "自由演技(フリー・ルーティーン)"を行い、それぞれの得点を半分ずつ合計した点数で、順位が決まる。

鈴木・原田ペアは、昨年の世界大会デビュー以来、常に表彰台に上がっている実力派。それぞれ、間違いなく世界トップクラスだといわれている、得意技を持っている。
ジュニア時代から、鈴木・原田の著しい成長を見てきた、日本水泳連盟・金子正子シンクロ委員長に、2人の特色を尋ねてみた――。「鈴木選手は、生まれながらにして天才肌。世界的にも稀に見る綺麗な倒立をしてスピンをこなす。原田選手は、パワー溢れるダイナミックなスラストが得意。」と語る。

鈴木の華麗なるスピン――。そして、原田のパワーみなぎるスラスト――。それぞれシンクロナイズド・スイミングの根幹を成す技の一つだが、2人の技術は最も完成度が高い。
まずは鈴木の『スピン』から検証してみる。彼女のスピンの特色は、その精緻極まる"正確さ"である。真上から見ても――回転軸がブレず、ネジのように水中に入ってゆく。回転する鈴木の周囲には、綺麗な渦が巻き起こっている。
同じことをジュニア・ナショナルチームの選手にもやってもらった――。回転軸がブレるため、少しずつ横に移動してしまい、渦も乱れる……。鈴木と比較してみる――。鈴木は、真っ直ぐ吸い込まれてゆくように、水の中へ入ってゆく――。

シンクロの技の中でも、もっとも難しい部類に入ると云われる、スピンのアップダウン。鈴木は、何故これを完璧にこなすことができるのだろうか――?
ナショナルチームの指導を行っている、筑波大学・本間美和子助教授はこう分析する。――「(鈴木は)非常に躰が丸い(ので水の抵抗が少ない)。また特に体幹の体積が非常に大きいので人より浮力がある。躰が丸いのと、体積があるので、一つの主軸できっちりと回れる。」
スピンしながら水中に戻る鈴木を見ると……気泡が躰にまとわりついているのが判る。回転軸がブレないため、その気泡の渦の中に綺麗に躰が入るのである。

スピンの、さまざまなバリエーションも、高い完成度でこなす……。丸い躰を持つことで、完全なスピンをやり遂げる鈴木の躰は、一体どれほど"丸い"のか?MRIを使って、彼女に輪切りになってもらった――。確かに、鈴木の躰は、体幹の筋肉や脂肪の付き方も、とても丸い。
一方、パートナーの原田の得意技は、スラスト。水面から、逆立ちの姿勢でロケットのように飛び出す技である。
原田のスラストの特色は、世界トップレベルの"高さ"である――。比較するためにジュニア選手にもやってもらった――。比べると原田は、ほとんど鳩尾の辺りまで水面から飛び出している。この高さは、どのようにして生み出されるのだろうか?

水中での原田とジュニア選手との2人の動作を比較してみると、――原田は腕を真っ直ぐに伸ばし切って、躰を押し上げている。横から見ると、瞬発力がうまく発揮されているのが判る……。瞬発力でグンと躰を伸ばし――腕で水を押し上げて、より高く飛び出すのである。
このように、水面の"舞台上"で有効な演技をするために、彼女たちは水中で自在に動き回らなければならない。そのために必要なものとは……?「シンクロの場合は常に躰の半分が水の中に入っている。水面からの高さが高ければ高いほど得点が高い。その高さを上げるためには浮力があった方が絶対的に得。」と本間助教授は解説してくれた。
その『浮力』を支えているのは、体脂肪である。筋肉は水より比重が重いため、筋肉質の躰は沈んでいってしまう。躰を水に浮かせるためには、体脂肪をつける必要がある。シンクロ選手である鈴木と原田は、どのくらいの体脂肪率なのか?

国立スポーツ科学センターの協力で、測定してみた。最新式の体脂肪測定器で計測する。一般の20代女性の平均的な体脂肪率は、20%から25%程度だという。
スポーツ選手である彼女たちはどのくらいなのか……?結果を見ると――2人とも一般女性と変わらない。
水中で激しい運動をしつづけ、この体脂肪率を維持してゆくのには、大変な努力がいる。筋肉が付けば、それに比例した体脂肪も付けなければならない。食事にも、人一倍気を遣う。
食堂では、献立をコンピューターに入力し、栄養がバランス良く摂取できているか、カロリー量は適切か、常にデータを取ってゆく。
栄養のバランスは"絶妙"との結果が出た。
彼女たちは、1日に4000〜5000kcalという、20代一般女性のおよそ2倍のカロリーを摂る。それでも練習がハードになると、体重が減っていってしまうのだという。食事をすることも、大事なトレーニングの一環なのである……。
彼女たちは黙々と食べることで、水の中で自在に動くための『浮力』と、激しい運動量に耐える『パワー』を得ているのである。
こうして、正確でダイナミックな演技や、スピードと高さのある演技が保たれている。
さらに、鈴木・原田ペアの息の合った演技には、驚愕の秘密が隠されていたのである――!

今年5月に行われた、ジャパンオープン。鈴木・原田ペアは、宿敵スペインを抑えて、堂々優勝を果たした。このとき、世界の注目を集めたのは、鈴木・原田ペアの、驚異のシンクロナイズ……。
アトランダムに映像を止めても、どの瞬間も2人の演技は一糸乱れず、同調しているのである!

2人はいったいどのようにして息を合わせているのだろうか……?
音楽に合わせて、演技のタイミングや展開を、入念にチェックする『音合わせ』という練習。地上なので、足の振り付けは、代わりに手で行う……。2人のカウントもピッタリ合っている……。コーチに、2人では補えない客観的な部分をチェックしてもらい、より完璧に同調させてゆく。
ピッタリ同調していれば、お互い、ごく近い距離で演技することができる。これは高得点の要素である。
さらに鈴木・原田ペアは、一つ一つの演技を、より緻密な精度で作り上げようとしている……。
「ここがコーチの勝負所」と言う金子コーチが、2人が繊細な技術を身に付けるための細かい指示を出す。……この『精度の高さ』が、日本ナショナルチームの伝統。鈴木・原田ペアは、そこにダイナミズムとスピードを付け加えている。
コーチに指摘された点を、2人はすぐに飲み込んで改善してゆく……。そして水中では、お互いにアイコンタクトを交わしてタイミングを合わせているのである。

鈴木・原田ペアは、日々の懸命な努力の積み重ねによって、世界が驚くシンクロナイズを実現していた――。
世界トップレベルを誇るパワーとスピードを持った鈴木・原田ペアは、さらに精度の高い表現力と、一糸乱れぬ同調性を獲得して、世界の頂点を狙うのである!

第二章・自覚

シンクロナイズド・スイミングがオリンピックの正式種目となって以来、日本は常にメダル圏内に君臨しつづけ、『お家芸』と云われるようになっていた。
常に正確で丁寧、優雅な美しさで"ジャパンシンクロ"を支えた立花・武田は、7年にわたってペアを組み、2004年のアテネオリンピックで銀メダルを獲得して、有終の美を飾った。世代交代。次を担うのは誰か――?
そこで白羽の矢が立ったのが、鈴木絵美子と原田早穂だった。この2人のシンクロは、それまでのジャパンシンクロとは、ひと味違うものだった……。

2人がシンクロを始めたのは、小学校の時。ほぼ同時期にその魅力と出逢い、金子コーチの目に留まった。小学校の頃に全国ジュニアオリンピック大会に出場した鈴木は、大器の片鱗がキラリと光る少女だった……。一方、小学校2年のときに父親に連れられてきた原田は、シンクロに楽しそうに取り組む女の子。――そんな印象だった。
2人は順当にナショナルチームに抜擢。しかし、それぞれの評価は分かれていた――。
「鈴木選手は日本人には数少ない足の美しさをもった選手。これは生まれながらの武器だと思う。」「鈴木選手を天才型だとしたら原田選手は努力型。鳥のくちばしのような(美しい)手足をもっていない分、努力をして自分が好きなシンクロを勝ち抜くという気持ちが旺盛な選手。」2人を育て上げた金子コーチはこう評した。
そして、2003年――アテネオリンピック代表選考会。鈴木と原田は、共に同じ所属チームから、選考会に参加した。
鈴木は、美しく正確なスピンをきめた……。原田は、高さのあるスラストをみせた……。2人は、それぞれの持ち味をアピールして、見事に、代表のキップを手にした。

迎えた2004年アテネオリンピック――2人は、世界一を決める大舞台に、日本チームの一員として参加。ベテランの選手たちに混じって、懸命に息を合わせ、立派にその役割を果たした――。日本チームは、銀メダルを獲得。2人はオリンピックという一種独特な"熱気"を、肌で実感した。

――そして、このアテネオリンピックは、悠然として、正確で丁寧、繊細な美しさを持ち味としていた日本のシンクロにとって、大きな転換期でもあった。
ジャパンチームを中心で支えていた、立花・武田ペアが、このオリンピックを花道に、引退する。
日本のシンクロの未来図は、新しいビジョンの元、描き替えなければならない"曲がり角"に差し掛かっていた。

「世界のトップを占めていたアメリカやカナダは、スポーティでより直線的な演技が多かったが、おそらく摩訶不思議な曲線を使うシンクロになるだろうと分析した。アメリカやカナダに右へ倣えでやってきた日本は、このままでは5位・6位以下に落ちてしまう。勝ち抜くためには、ロシアのバレエのモノマネでも勝てない。ロシアとは違う方向で、より運動能力を使い、日本がトップを目指して始めたのが、『スポーツシンクロ』。」と金子コーチはそのとき下した方針を語った。

次の日本が目指す、『スポーツシンクロ』とは、何か?――「スピードと、より運動能力を上げたパワー溢れる演技」だと金子コーチは言う。大振りに見える演技と確かなテクニックで得点を稼ぎ、世界と戦うというのだ。
その方針の下、金子は、次の世代を担う、新しいデュエットを選出しなければならなかった。
従来の優雅でエキゾチックな「和」のテイストを捨て、スピードとパワーのスポーツシンクロを作り上げてゆくため、もっとも相応しい選手は誰なのか――?そう考えたとき、瞬時に脳裏に浮かんだのが、まさしくスピードとパワーが際立っていた、鈴木と原田の2人だった。しかし、そんな金子の抜擢に一番途惑っていたのは、鈴木と原田、本人たちだった。

五里霧中の状態ではじまった2人の練習――。ただ、コーチの指し示す道標を頼りに、2人で猛進してゆくのみ……。あれこれ考えたら、プレッシャーに押し潰されそうだった……。
そして迎えた、デビュー戦。2人はしっかりと手を取り合い、覚悟を決めて世界のステージへと向かった。
デビュー戦にもかかわらず、鈴木・原田ペアは、銅メダルを獲得。――しかし、2人は満足していなかった。「テクニカルで勝ってたのに、逆転されて負けたのが悔しかった。詰めが甘かった。目標設定も浅かった。」鈴木は振り返る。
原田は、「先輩たちが築き上げてきた"強い日本"というイメージを崩さずに、メダルを獲得できて嬉しかった。少しホッとした。」と言う――。

むくむくと湧き上がってきた、日本代表デュエットとしての自覚――。スピードとパワーみなぎる"新生ジャパンシンクロ"が、音をたてて突き進みはじめた!

第三章・躍動

今シーズンから、シンクロナイズド・スイミングの判定基準に、新たな項目が加わった。それは『柔軟性』――。
例えば、水面上に飛び出して開脚をする時、180°か、それ以上開けば、高得点がつけられる。ロシアやスペインの選手たちは、股関節が柔らかく、180°はゆうに開く。
ところが、鈴木・原田ペアは、ともに躰が硬く、足は開ききらない。2人にとっては不利な改訂だった。
対策として鈴木・原田ペアが取り組んだのは、柔軟体操ではなく、演技の精度を上げることだった。
もともと世界トップレベルのスピードとパワーと高さ、という2人の持ち味を生かし、さらに鍛え上げて磨きをかけることで、世界に対抗してゆこうという方針である――。2人の特訓がはじまった。
効果は、たちまち現われた。水面高く飛び出して、スピーディーな開脚をする。柔軟性ではなく、ダイナミックさでの得点を狙う!

世界中の選手が、オープン参加してくる大会、2006年ジャパンオープン。強豪スペインも参加してきた――。
柔軟性で勝るスペイン代表のデュエットと、事実上の一騎打ちとなった鈴木・原田ペアは、高さとスピードで対抗――。フリー・ルーティーンでもダイナミックな演技を披露して1位に輝き、宿敵スペインを抑えて、優勝を決めた。
そして今年はもう一つ、日本でシンクロのワールドカップが開催される。
鈴木と原田は、代表合宿の真っ最中――パワフルでスピーディーなスポーツシンクロの完成を目指して、強化メニューをこなす日々である。朝8時半から夜半まで、1日およそ8時間も、練習は続く。
2人が取り組む課題とは?――鈴木は、「背が小さい分、もっと大きなダイナミックな演技をしなければならない。新しくなったエレメンツを、より確実なものにすること。」だと言う。原田は、「大人の表現力、"魅せる力"。」だと言う。
2人にとって、パートナーとは?――鈴木は、「(原田は)本当に一緒に戦ってきた仲間。早穂ちゃんを差し置いて自分だけ上手くなりたいとは思わない。一緒に強くなりたい。」と言う。そして原田は、「(鈴木を)すごく信頼している。信頼しているからできることとか、言えることとかが沢山ある。すごくいいパートナーだと思う。」と語る。

無我夢中で走りはじめた2人は、今、新しく日本が目指す、躍動的なシンクロナイズド・スイミングを築いてゆく"エース"として、輝きを増しているところである――。
 
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